人材はコストなのかリソースなのか? ~賃金UP時代に考えるマネジメントのあり方~
流通小売業界の賃上げが昨今ニュースを騒がせています。
ファーストリテイリングやイオングループといった大手が続々と従業員の賃上げを宣言し、各企業の皆様もこの取り組みにどう対応すべきか頭を悩ませているのではないでしょうか。
2022年度の小売業の平均賃金は351万円と産業別にみても最も低く、トップの金融業と比較すると年額100万円もの差があります。(下図参照 DODA調べ)
出展:https://doda.jp/guide/heikin/gyousyu/
この事実は、(様々な議論があるのは承知していますが)直接消費者の日常と接する小売業の構造的な課題によるものでもあるとも言えます。「より安くより良い品物」を求める顧客に応えるべく努力を続けた結果、賃金を上げることが難しくなってしまっているのではないでしょうか。
これまでネクスウェイでも「人時生産性の向上」や「付帯業務の削減による人件費削減」といったテーマで数多くのお客さまを支援してきました。しかしながらこれらのテーマを追求するには限界があることも事実です。また過度にコストを意識した結果、現場が疲弊し、サービスレベルの低下や離職を招き、結果として売上を下げることにも繋がってしまうでしょう。
今後、各社で迫られるであろう賃上げに対応しつつ、利益を創出していくためには、いったい何が必要なのでしょうか。ヒントのひとつに人材の捉え方があるように思います。
どういうことなのか?
人材はコスト(費用)でありリソース(資源)であるという二面性をもっています。これまでの小売業における「人材」はどちらかというとコスト寄りの位置づけで、いかに効率的に活用できるか/ギリギリまで活用できるか/最適に配置できるかということが重要視されてきました。
もちろん今日でも最適なコストでオペレーションを回すことは、小売業の利益創出において相当に重要な要素を占めています。
一方で「人材=リソース」という捉え方をしてみると、いかに「人でしかできないこと」を実施してもらい、市場の消費者に価値/付加価値を返していくかというテーマで人材の活用ができる可能性も十分にあります。実際に人材をリソースと捉えて積極的に価値創造へ動き始めているという小売企業の声を聞くことが最近徐々に増えてきているように思います。
事実、経営資源と言われる「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」のうち唯一「ヒト」のみが額面以上にも以下にもなりうる可能性を秘めています。同じ賃金でもスキルやその時のモチベーションによってその成果は大きく変わりますよね。単に頭数としての人材ではなく、価値創造を期待する人材とみてマネジメントを実行できると、店頭の人材の動きは大きく変わっていくような気がしませんか?
賃金が上がるからこそ、ますます省力化を図って人材「コスト」を切り詰めた経営をしていく。これでは付加価値も創造できず、いずれじり貧になっていく…。
国内の総需要が減少していく中、このような取り組みよりも、人材「リソース」を活用し「より魅力的でワクワクするお店や商品を創造し選ばれる企業になる」という選択肢の方が有効性が高いと言えるでしょう。
これまでのようなコスト寄りの位置づけで人材を捉え管理していたマネジメントから、リソースとしての側面を捉えたマネジメント(動機付けやミッションと期待の設定など)のほうにより重きをおくタイミングに来ているのかもしれません。
各社は様々な努力(=主にコスト削減)を行い、「安くて良いもの」というこの消費者のニーズに応えてきた歴史がありますし、それが正解だった長い時代がありました。ここにきて昨今の業界の賃上げ動向はそんな歴史の転換点になる可能性が大いにあります。これを危機ではなく機会と捉えて、より価値/付加価値の高い魅力的な小売店舗作りを実践する企業が増え、よりワクワクする豊かな買い物体験が溢れる世の中になっていくことを期待しています。